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作成日:2026/07/26
【企業法務】親しみのつもりが違法行為に ― 「ちゃん付け」セクハラ訴訟


親しみのつもりが違法行為に ― 「ちゃん付け」セクハラ訴訟(東京地裁令和7年10月23日判決から)

令和7年10月23日、東京地裁は、大手運送会社Xの営業所に勤務していた女性従業員が、年上の元同僚の
男性
従業員から「ちゃん付け」で呼ばれる等したことがセクシュアルハラスメントに当たるとして
約550万円の
慰謝料を求めた訴訟について、「許容される限度を超えた違法なハラスメント」と認定し、
22万円の支払い
を命じる判決を言い渡しました。日常的な呼称のあり方が法的リスクとなり得ることを
示した事例として、
注目されています。

■事案の概要

原告女性は、2020年以降、東京都内の営業所に勤務する中で、年上の元同僚である被告男性(係長)から、
次のような言動を受けていました。

・日常的に「Aちゃん」という愛称で呼ばれた
・キャンセルとなった電報便を原告の自宅に送付した際、宛名に「Aちゃん」と記載された
・休日に、勤務中の原告からの業務報告に対し、「こんな愚痴や話を聞いてくれるのはAちゃんだけだよ」
 と言われた
・「かわいい」「体形良いよね」といった発言を受けた

原告は2021年にうつ病と診断され、その後退職しました。被告男性は社内で厳重注意処分となっています。

■裁判所の判断

裁判官は、次のような理由から、一連の言動をセクハラと評価しました。

・「ちゃん」付けは通常、幼い子どもや親密な関係にある相手に用いられるものであり、業務上用いる必要性は
 乏しい
・原告・被告の年齢、性別、単なる同僚という関係性に照らすと、原告に不快感を与えるものであった
・厚生労働省の「心理的負荷による精神障害の認定基準」でも、「○○ちゃん」等のセクハラ発言は心理的負荷
 を与える出来事の一例とされている
・「かわいい」等の発言も含め、一連の言動は「羞恥心を与える不適切な行為」であった

■その後の経緯

原告は令和5年、被告男性とともに、使用者責任に基づく損害賠償請求として大手運送会社Xも提訴していました
が、令和8年2月、同社が解決金70万円を支払う内容で和解が成立しています。
 

■実務上の示唆

職場によっては、古くからの慣習として「ちゃん付け」呼び合いが残っている場合もあります。
しかし、ジェンダー
意識の変化や価値観の多様化が進む中、「これまで問題にならなかったから大丈夫」という
感覚での運用は、
セクハラと評価されるリスクを伴います。加えて本件は、個々の発言が軽微に見えても、積み
重なることで
「一連の言動」として違法性が認定され得ることも示しています。就業規則や研修等を通じて、
職場での呼称・
言動のあり方についても見直しを図ることが望ましいといえるでしょう。

■代表者コラム(補足)

余談ですが、私自身も、同業者の方や、以前の職場でお世話になった後輩に対して、親しみを込めて「〇〇くん」
と呼ぶことがあります。今回の判決を読み、こうした呼び方も同様にセクハラと評価されうるのだろうか、と
改めて考えさせられました。

本判決が示しているのは、「ちゃん(くん)付け」そのものが一律に違法だということではなく、相手との関係性が
どの程度構築されているか、そして呼称以外にも相手の人格や尊厳を軽んじるような言動がなかったかどうかを、
あわせて確認する必要があるということだと思います。親しみのつもりであっても、関係性の土台がなければ、
相手に
とっては不快なものになり得ます。

だからこそ、就業規則の整備などはもちろんのこと、研修やグループワークなどを通じて、「職場での呼称・言動の
あり方」について、社員同士で話し合う場を持つことが大切だと、改めて感じています。
 

皆さまの職場では、いかがでしょうか。呼称や言動をめぐるルールづくり、研修の実施など、お困りのことがござい
ましたら、当所/当社までお気軽にご相談ください。

[出典]
東京地判令和7年10月23日(労判ジャーナル169号43頁)


厚生労働省の「職場におけるハラスメントの防止のために」のページが更新され、「事業主が講ずべきハラスメント
対策パンフレット」が公開されました。


参考リンク
・職場におけるハラスメントの防止のために(厚生労働省ホームページ)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/seisaku06/index.html
・事業主が講ずべきハラスメント対策パンフレット(厚生労働省ホームページ)
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001338359.pdf