メンタル不調の社員、家族に連絡してよいか ― 病歴開示と職場の様子開示の境界線
気分の浮き沈みが激しく、「死にたい」と口にする社員がいる場合、企業としては家族への連絡を検討したくなる場面が
あります。しかし、過去に精神疾患の診断歴がある場合、その扱いには注意が必要です。
本稿では、こうした場面における家族への連絡・情報開示の可否について解説します。
■結論
・本人の職場での様子からメンタル不調がうかがわれる旨を家族に伝えることは、本人の承諾がなくても直ちに違法とは
なりません
・ただし、過去の病歴(例:適応障害の診断歴)を本人に無断で家族に伝えることは、緊急の必要がある場合を除き違法と
なります
■病歴と職場の様子、扱いが異なる理由
・病歴は個人情報保護法上の「要配慮個人情報」に該当し、本人の同意なく第三者に開示することは原則として違法です
・同居家族であっても「第三者」に当たるため、本人の同意なき病歴開示は原則として違法とされます
・例外的に、本人の安全確保のために高度の必要性がある場合には適法となり得ますが、極めて限定的なケースに
とどまります
・一方、「本人の素振り等から外形上障害や疾患の可能性がうかがえる」という情報や、多くの関係者の目に触れる職場
での様子は、要配慮個人情報や「私生活上の事実」には当たらないとされています
・そのため、「死にたい」と口走っている等、職場での言動からメンタル不調がうかがわれる旨を家族に伝えること自体は、
違法とはいえません
■実務上の対応のポイント
・本人に無断で家族に連絡すると、本人の強い反発を招き、トラブルとなるケースが少なくありません
・まずは本人に対し、会社として心配している旨を伝え、家族への連絡について本人の意向を確認する
・本人が拒否する場合は、本人同席の下で家族と話す機会を提案する
・それでも拒否される場合に、初めて直接家族へ連絡する
――という段階的な対応が望ましいとされています
・なお、会社が家族に連絡する法的義務を負うわけではなく、連絡しなかったこと自体を理由に会社が
損害賠償責任を問われることもないと考えられています
■事前の備えとして
本人がメンタル不調に陥ってから同意を得るのは難しいことが多いため、あらかじめ緊急連絡先を届け出て
もらい、就業規則や労働契約書に、会社が必要と認めた場合には本人の個別同意なしに緊急連絡先へ連絡し、
職場の状況や健康情報を開示することがある旨を定めておくことも、有効な対処法の一つです。
〔出典〕
『メンタル不調と労務管理Q&A−異変の兆候・不調者をめぐる悩ましい問題への対応−』
編著/勝井良光(弁護士)
発行/令和8年3月2日