多くの企業で「育休制度の整備」や「時短勤務の導入」といった両立支援策が進んできました。
しかし、「制度は整えたのに、女性社員が次のステップや役職への挑戦に慎重になってしまう」
「配慮の仕方が分からず、現場でのコミュニケーションに戸惑う」という声をよく伺います。
リクルートワークス研究所の調査(2026年6月)によると、地方圏で働く多くの女性は
情報収集などの初期行動を行っているものの、スキル習得やキャリア設計といった具体的な行動には
つながりにくい実態が指摘されています。
そして注目すべきは、「周囲の理解や制度の存在、単なるロールモデルの提示だけでは、キャリアの
自己効力感(自分にもできるという確信)や結果期待(挑戦すれば報われるという見通し)に直接結びつかない」
という調査結果です。
女性が主体的にキャリアを切り拓くために決定的に重要なのは、「過去の仕事での挑戦経験」と
「自分の強みややりがいを実感できた経験」です。ですが、この自信と期待を育てる現場のマネジメント
において、多くの管理職がひとつの「落とし穴」に直面しています。
例えば、妊娠中の社員に対して「無理をさせまい」と重量物を運ぶ業務から外そうとした際、本人は
「大丈夫です、自分で持てます」と申し出るようなケースがあります。
ここで管理職が悩みやすいのが、相手の意向をそのまま尊重すると、安全配慮義務の違反や労災リスク、
ひいては管理職としての責任(資質)を問われる懸念が生じるという点です。一方で、会社側の都合で
一方的に業務を制限すると、本人の挑戦機会を奪い、「任せてもらえない」「信頼されていない」と
モチベーションを削いでしまうことにもなりかねません。「良かれと思った気遣い」が相手の意向や
現場のリスク管理と食い違ってしまう背景には、「双方が見ている前提の違い」があります。
職場で良好な関係を築く前提として知っておくべき原則があります。
それは「お互いの価値観はそれぞれの生きてきた経験で成り立っており、相手の頭の中と自分の頭の中で
考えていることはそもそも全く異なる」ということです。
「言わなくても分かってくれるだろう」「配慮なのだから伝わるはずだ」という思い込みを捨て、
管理職側は以下をしっかりと言語化し、丁寧に説明する必要があります。
「なぜその配慮が必要なのか」という理由(安全配慮義務やリスク管理の視点)
「本人を軽視しているのではなく、身体と安全を守るための組織としての判断である」という意図
ただ制限を伝えるのではなく、会社側の立場や背景を適切な言葉で正しく伝えることが、相手の納得感と
安心感を生みます。
すれ違いを防ぎ、相手の頭の中にある本当の意向や不安を引き出すために不可欠なのが、
「傾聴」と「適切な問いかけ(質問力)」です。
指示や判断を一方的に言い渡すのではなく、問いかけを通じて対話を深めます。
「どのような点であれば負担なく力を発揮できそうか?」
「本人は今、どんな業務に挑戦したい(あるいはセーブしたい)と考えているか?」
このように相手の言葉に耳を傾けるプロセスを経ることで、本人は「自分の意向や状況を理解してもらえた」
と感じることができます。
同調査でも示されている通り、家庭の事情等で仕事を一時セーブした後に「少し背伸びが必要な挑戦的業務
を経験したこと」や、「業務を通じて自分の強みを理解できた経験」がある人ほど、高い自己効力感を持って
主体的に働く傾向があります。
「配慮」という名のもとに挑戦機会を奪ってしまうのではなく、対話を通じて本人の意向を汲み取りながら、
安全の範囲内で段階的な「成長の機会」を設定していくことが重要です。
「安全配慮義務やリスク管理を果たしながら、どう本人の意欲と挑戦を支えるか」。
その答えは、単一のルール適用や思い込みの配慮ではなく、価値観の違いを前提とした
「言葉による丁寧な対話」にあります。
「良かれと思った配慮」で終わらせず、深い傾聴と質問力で「お互いの認識」を一致させていく。
この対話のプロセスこそが、社員一人ひとりのエンゲージメントを高め、地方企業の持続的な成長と活力を
生み出す強固な基盤となります。
※本コラムは、以下の公表資料を参考に作成・考察したものです。
参考資料:『女性キャリアの自信と期待を育てる地域・職場づくり――自治体・企業は何に取り組むべきか』
発行元:リクルートワークス研究所(2026年6月1日公開)