季節によって仕事の量が変わる業種で、広く使われている「1年単位の変形労働時間制」。
この制度の運用が、いま裁判で厳しく問われています。日本経済新聞が10月30日に報じました。
報道によると、ある引越会社の運転手3人が、1年単位の変形労働時間制と出来高給の計算方法が妥当でないとして提訴しました。
東京地裁立川支部は2023年8月、制度を無効と判断し、通常の法定労働時間を適用して、未払いの時間外手当など計1,574万円の支払いを会社に命じました。2024年5月の東京高裁も同じ判断で、会社側が上告し、記事の掲載時点(2026年10月30日)では、最高裁で争われています。
今年3月には、関東のある中小鉄工所をめぐる同種の裁判でも従業員側の勝訴が確定し、約155万円の支払いが命じられました。
いずれも、あらかじめ決めた休日を出勤日に変えたことなどが問題とされています。
この制度は、忙しい時期は長く、閑散期は短く働くことで、1年を通して労働時間を調整する仕組みです。1か月以上で区切って運用する場合、各区分の30日前までに、労働日と労働日ごとの労働時間を特定し、労働者代表の同意も得なければなりません。特定したあとに、労働日などを任意に変えることは、原則として認められません。
全国の企業の30.3%が使っていて、30〜99人規模では31.6%と、中小企業で特に多い制度です。しかし、制度の法的な意味や制限をきちんと理解している中小企業の経営者はどのくらいでしょうか。
日本商工会議所は、天候や下請けの遅れで作業がずれる業種の実態に合わないとして、弾力化を提案しています。厚生労働省の労働政策審議会でも、9月から検討が始まりました。一方で、この制度は、労働者の生活時間への影響を抑えながら労働時間を減らすために導入されたものです。時間外手当を抑える目的に見えるとの指摘もあります。
なお、1か月単位の変形労働時間制では、変更できる例外的な事由を就業規則に具体的に定めていた場合に、変更が認められうるとした裁判例もあります。ただ、限られた場合の判断で、1年単位にも当てはまるとは限りません。
10月30日の労働政策審議会では、連続勤務日数の規制も議論されました。
報道によると、いまは制度上、最長48日間の連続勤務が可能ですが、厚生労働省は、精神障害の労災認定基準をもとに、労働基準法に最長13日の上限を設ける方向で見直す見通しです。経営側は、上限の必要性に賛同する一方で、災害時などの例外を求めました。労働側は、例外が多くなり、恣意的に運用されては意味がないとして、例外でも超えられない上限日数を法令で定めるよう訴えています。
判例の流れには、衝撃を受けると同時に、「やはりそうなってきたか」という思いもあります。
制度は便利な道具ですが、会社の都合で働かせてよい仕組みではありません。
緩和の議論が進むときも、育児や介護との両立など、働く人の生活が置き去りにならないことが大切だと思います。
連続勤務の上限の議論でも、例外が「会社の都合」で広がらないかが問われています。
自社の運用は、条件を満たしているでしょうか。一度、点検してみることをおすすめします。
【出典・参考】
・日本経済新聞「『休日を出勤日に』で企業敗訴相次ぐ 変形労働時間制に厳しい司法」(2026年10月30日)
・朝日新聞「連続勤務日数に上限設定へ 最長13日を検討 経営側は例外求める」(2026年10月30日配信)
・労働基準法第32条の4(1年単位の変形労働時間制)